うたたねにもうこの世のものでない人と話をするなにについて話しているのかは曖昧な波のようなものではっきりとはしないのですがどうやらわたしはその人が随分前に死んでしまっているという事をまったく忘れてしまっているようなのですとにかくとても安心し満ち足りた気分でこうしてまた話を聞いてもらえる事に非常な幸福をおぼえ歓びのあまりその人を抱き上げるのですがそのひとの肉体には全く重さがなくその軽さはこの世のものではないそうだこの人は夜の向こうからわたしのもとへなにか重大な忠告を与えようとやってきたのだと知ってその場にしゃがみこんで泣きじゃくるのですがもういいよと云われ目を覚ますのです。
久方ぶりに会う人は。
古本屋の日記 2012年4月6日