象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

顔面譚〜奇怪な伝記のための素描

目だけを、ギョロリと真上に動かして、頭の天辺からゆっくりと顔の大きさを測定するようにして下へ降ろしてゆくと、なぜだかあるはずの胴体を通過しないで、いきなり、地面に出くわすような、まさか、顔面に足が生えて顔面だけが地面の上を歩いているわけではないでしょうが、やはり、ああ、限界まで下げられた眼球が痛い、胴体を確認したい、たい、痛いなーと思いながらもう一度上から下へゆっくりと目玉を動かす、限界、もう見れない、はたして、わたしは、顔面だけの存在なのであろうか。

……顔が、デカイとは、中学生の時から云われていた事だが、出来るだけそのことには自ら触れずに、知らん顔して生きて来たのだが、もしかして、無視し続けている間に身体の成長は止まりただひたすら顔面だけが育ち続けていたとしたら、30年もほったらかしにしていた息子に会うのが恐ろしいように、その顔面について考えるのが恐ろしい、鏡は、毎日見ているはずだが、全体の、バランスやなにやは、真剣に見た事が無い。わたしは、どのようなものであるだろうか。

(ハンプティ・ダンプティは卵に手足が生えているもののようであるが、色んな絵本を見てみると、顔面だけの存在と見れなくもない。とはいうものの、あれは、ようするに、お伽の国の住人である。わたしは、この貧しい現実世界の、貧しい古本屋である。最近の、こけしへの愛は、あれは、同族に対するものであるかもしれない)

 

……荒野を、顔面がこちらに向かって歩いてくる。

やあと声をかけたら、

無視された。

……。

古本屋の日記 2012年2月26日