象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

春画帖を買う。

お客様の依頼でふらりと電車に乗って肉筆の春画帖を見せてもらいにゆく。恐らく、思ったほどにはならなかっただろうと思われますが、金額と、その根拠を説明して、快く譲っていただく。小脇に、大きめの画帖を抱えて、帰りの電車でうとうとする。先日亡くなった先輩古書店が好きなジャンルなので、生きておられたら、もう少し高く買えたかもしれないなと思い、一人の人間の、いるといないが市場に与える影響の大きさを、今更ながらに考える。うとうとと、Hさんのいる市場の光景を京阪電車の夢に見る。厚生君がポンと画帖をテーブルの上に放り出して、安く発句する。底値から、たぶん500円だね。当然買値を下回っているので心配になってわたしは少しテコっちゃうかもしれないね。二千三千と値を刻んで、それを、耳の聞こえにくいHさんの横のBさんが耳打ちすると、Hさんは八千一万と跳んでくれるにちがいない。8千でHさん。厚生君がすっと画帖を先輩の方にすべらすと、うれしそうにそれを両手で抱えて、誰に云うとも無くありがとうとお礼を云うのだ。

……そうだ。そんな光景がほんとうにあったのではないか?近頃では、あちらとこちらの境がわからなくなっているので、その市場のざわめきがつい昨日の出来事のように思え、たしかにこの画帖がもう先輩のものであるように思えるのは、わたしがまだ電車にゆられていて、思ったよりも深く眠っているからでしょうか?

古本屋の日記 2012年1月31日