象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

ヘーゲルを買う。

ヘーゲル

(昨日の市場で買った 美学講義上中下 作品社刊です)

 

あんた、ヘーゲルったって、何国人かさへ知らないような感じですがね、時折、市場で、何だかとても賢そうな書物を見ると、つい、ふらふらと、入札してしまうことがあるのです。こんな、硬くて、売値の決まっているような本は、正直、儲けが薄いので、古本屋にとってはあまり美味しい商売ではないのですが、馬鹿のわりには、というか、馬鹿だからこそ、かしこへの憧れはそりゃあもう半端ないわけです。何が書いているかなんて、知りませんがね、分厚い本を抱えて、ヘーゲル、と、小声で囁くだけで、そりゃあもう世界の謎の核心に触れたような気になって、わたしは知っている知っている、何だか興奮して来てワーッと立飲みに行って、隣のおっさんにアウアウ、ヘベンベン、ベンベンとうわ言のように繰り返して、口の端にツバを溜めたおっさんに、兄ちゃんは難しいこと知ってんなあと、笑って褒められるわけです。一度、ミナミのバーで、おんなじ体で話していたら、その店のバーテンに、それは、アウフヘーベンのことですかと、澄ました顔で聞かれ、しかも、意味が違っているように思うのですかときたものだから、どっと、汗が噴き出しましたがね、そこは、まあ、連れもいることだし、星田の、幼なじみの間ではかしこで通っているわけですから猛反撃、おまえにヘーゲルの何がわかるのかと、どうせ、哲学入門だの現代思想入門だのしか読んでないやろなどとわめきながら、段々に話をそらして、うまく、少しずつ、ミナミの別の飲み屋のマスターの悪口へとスライドしていったのですが、はあ、朝帰り、パソコンを開き、アウ、なんだったっけかなと、ヘーゲル、アウ、で検索、確かにわたしの言葉の使い方は間違っていたなとがっかりしてあのやろう生かしちゃおけねえと思ったのです。

 

例文;厚生君もいろんなことアウフヘーベンしたら、もうちょっと、かんばれそうやけどなあ。

 

なんか、ちょっと、違うけど、なんか、かしこなったような気ィしいへんかな?難しいこといわんと、それでええやん。使てるうちに段々意味わかってくるし。ただし、本棚に、ヘーゲルの本何冊かもっとかな、使たらアカンで。それはヘーゲルに失礼や。

古本屋の日記 2011年11月8日