「たとえクソでも、そんなお前に振り向いてほしい」
昼。出汁のうすいうどんを食っていたら厚生君がたずねてきた。何かモゴモゴ云っているが要領を得ない。わたしは、うどんが冷めるのが気になってしょうがない。なにしに来たというでもなさそうな厚生君に知り合いの女の子のところへ絵本を届けてくれるようお使いを頼んで送り出し、さてうどんうどんときしめんをすすっていたら迷子になった厚生君がまた家に戻って来たのでしかたなく一緒に絵本を持って外にでて知り合いの女の子のいる袋小路まで歩く。昨日、玄さんに、肩まであった髪をばっさり切ってもらったのを、わたしはわりと気に入っているのだが、厚生君は鈍感だからか少しもそのことに触れようとしないので、自分で「髪切ってんけどなあ」というと「そうみたいですね」と答える。知っているなら、どうしてそのことに触れてくれないのかなあ。女の子が見つからないので袋小路を引き返して歩いているあいだ中わたしは世界がわたしに対してあまりにも無関心である事について考えていたこの場合、厚生君が、わたしにとっての世界、でありえるかどうかは、考えない考えない。