「人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ。敵の神をこそ撃つべきだ。でも、撃つには先ず、敵の神を発見しなければならぬ。ひとは、自分の真の神をよく隠す。」 太宰はん。「如是我聞」
この世の中に、優しい兎の毛の一筋程もその存在を許されぬうどん屋があることを、象々は初めて知った。いわゆる、普通の、うどん屋である。おっさんとおばはんとヤンキーっぽい若い兄ちゃんが、同じようなヤンキーっぽいおっさんとおばはんにずくずくの、大阪のきつねうどんを売っている店である。うまい。ビールとテレビとずくずくのきつねうどんは、なんの緊張感もなく過ごす大阪の昼ご飯には最適である。おしゃれである。今日、歌川国芳展を見に行く途中、象々はごく普通の感覚でそのうどん屋に入った。しかし○○は完全なる拒否反応をみせ、頼んだ山菜うどんを首を全く動かさずに食べると象々の素敵な話にも耳を傾けず、まったく、凍りついた、まるで、この店の全てを否定するかのような姿勢で無言を貫いた。じっと、前だけを見つめている。機嫌が悪いのだ。このうどん屋が、気にくわないのだ。何故だか判らない、けれど、○○の、なんだかちょっとしゃれた感性ってやつが、この、ずくずくのうどん屋を、否定しているのだ。勘定をして店を出るとすぐ○○に、何所が気にくわなかったのかと問いただす、いいえと○○は云う。どこも。
「いや、あんたあきらかにこのうどん屋に入ってから機嫌が悪なった、あきらかに、このうどん屋が気にくわんかったとしか考えられん」
「・・・」
「うどん、まずかったんか」
「ちがう、普通、いや、少し、このうどん屋雰囲気が悪そうやったから、汚いし、変なおっさんはいるし」
「しゃあけどお前、うどん屋なんちゅうのはだいたいそんなもんやで」
「うん、いや、そうかなあ」
「ああ、そやで、うどんはうどんなんやから」
「うどんはうどんでももっとましな店があるんちゃう?」
「ましな店?あんた、これ以上ましな店なんか何所にもあるかいな。」
「そんなことない、あるにきまってるやろ」
「?」
「ある」
「?」
「じゃあほんまのこといわしてもらうけど、女は、もっと奇麗なところで食事して、それから、美術館へ行きたいねん。いっつもあんたの連れてゆく変な店ばっかりでもううんざり、せっかくお出かけしてんねんからもっとましな所に連れて行ってな。はっきりゆうてわたし、あの店の形も、あの店のおっさんもおばさんも、あの店で喰ってる奴らもぜーんぶ、嫌い。ほんま嫌やわ」
というようなことがあっても、国芳の、本でしか見たことのない名品を生で見ることが出来て、とても有意義な一日でした。
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