暗殺者に狙われているかもしれないという不安をジュミートリー・ゾウドロヴィッチ・ナカーシカは玄さんに思い切って話してみたのだが相手にはされなかった。あるいは君がその暗殺者ではないだろうか。そう云うと、あんたやっつけてなんか得あるか?といって笑った。まあ、損もないけどな。
「損得の問題ではないんだけれど。もうすぐ冬だからね。もし暗殺されてその辺に死体が転がるとしてだよ、玄さん、この、ジュミートリー・ゾウドロヴィッチ・ナカーシカは、一体何を着て転がっていればいいのだろうか。それむきの、外套があるだろうか?僕は、アカーキイ・アカーキエウィッチが仕立てたような、遠目にはてっきり貂皮と見まちがいそうな猫の毛皮を使った外套で、冬の凍てつく街路に転がっていたいんだけどねえ」
……。
「ジューチャ、少しは古本のこと、考えた方がいいと思うよ。幾ら日曜日でも、これ、読んで、何かあるか?」
「……。」
「ていうか、ロシア人やめろ!」