「ね、なぜ旅に出るの?」
「苦しいからさ。」
「あなたの(苦しい)は、おきまりで、ちつとも信用できません。」
「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」
「それは、何の事なの?」
「あいつらの死んだとしさ。ばたばた死んでゐる。おれもそろそろ、そのとしだ。作家にとつて、これくらゐの年齢の時が、一ばん大事で、」
「さうして、苦しい時なの?」
「何を言つてやがる。ふざけちやいけない。お前にだつて、少しは、わかつてゐる筈たがね。もう、これ以上は言はん。言ふと、気障になる。おい、おれは旅に出るよ。」
太宰はん「津軽」
1993年の夏。東北の太平洋岸の町々を抜けて遠い津軽地方まで辿り着いた時にようやく思い出して`しばらく会社休みます`と電話したのでした。あの寂しげな公衆電話は今も金木の町にあるでしょうか。
今日の本はこれ。
津軽 詩・文・写真集
文:石坂洋次郎 方言詩:高木恭造 写真:小島一郎
昭和38年新潮社
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