古本屋と云う言葉でいつも頭に思い浮かべるのは、雑誌に載るような格好の良いお店でも敷居が高そうな専門書店でもなく、立派な目録やAmazonや賑やかな古本祭りでもない、いつも黒い頑丈な自転車に段ボール三箱分ほどの古本を積んで、キコキコ、遠い道のりをまるで苦行者のように運んでゆく、あの`彼岸の古本屋`の姿です。雨の日も風の日も、夏の日も冬の寒さに凍える日も、休むことなくただ黙々と、幾らにも売れないかもしれない重い古本を山と積んでキコキコ、`ええことまったくないで。象さん、早よ死んだ方がましや`とこぼしながら、キコキコ、ペダルを踏みつづけて、どこともしれない向こうの方へと遠ざかって行く年老いた古本屋の寂しい後ろ姿です。
あの自転車を、とうとうおりてしまったのですね。
さようなら。
もう喧嘩することもありますまい。