パリのスラムは変わり者の巣窟であるー孤独で狂ったも同然の人生に落ちた結果、ふつうのまともな人間になることをあきらめてしまった連中だ。金が労働から解放してくれるように、貧乏は人間を常識的な行動基準から解放してくれる。このホテルの客の中には、言語に絶するほど奇妙な生活を送っているのがいた。(ジョージ・オーウェル作 パリ・ロンドン放浪記 小野寺健:訳 岩波文庫)
暑いのに「パリ・ロンドン放浪記」を読みはじめる。市場で買った十四金のペン先と一緒にくっついてきたのでチラリと目を通したら上の一文に出くわし、読まないわけにはいかなくなる。貧乏は、僕の長年の研究テーマのひとつだから。貧乏と、言葉の美しさとの関係。ーー今日は、弱体に鞭打って夜行バスで横浜まで行かなくてはならない。こいつでなんとか寝苦しい夜をやり過ごそうと思う。それに飽きたら小声で薬師丸ひろ子のメイン・テーマを歌うんだ。