夕暮れ時の瓦町をふらーっと歩いているとアスファルトの上に少し前に失くしていたと思われる帽子と瓜二つの帽子が落ちているのを見つける。まさか。この道はほぼ毎日のように通っているのに今まで気づかないはずはない。同じでものであるが、きっと別の人が落としたものだろう。帽子を、失くしたかどうかさえ定かでないわたしはそう思って拾い上げ細部の汚れや草臥れ加減を仔細に観察してみるとどうもやっぱり象々の帽子である。失くしたかもな、と思ってはいたけれども、そう深く考えることはしていなかったのだが、ふむ。すると、なんだ、やっぱり失くしていたのか。一週間以上も道ばたに転がっていたのだから、もう少し汚れていてもよさそうなものであるが、ここのところ雨続きだったせいかどこか洗いざらしの感じでボロくはあるがさっぱりとしている。ちょっと狐につままれたような感じがするがまあいいや。少し、匂いを嗅いで問題ない。失われ、再び見いだされた帽子を頭にのっけてまた夕暮れの道を歩き始める。なんでか、道も影も長くなっている。また途中でなにか見つけるかもしれない。
帽子を拾う。
古本屋の日記 2015年9月12日