無というものがどこか遠いところからこちらへ近づいてきてやがてわたしやわたしでない全てのものを包み込むものと思っていたら、無は人の瞳の奥で小さな湧き水のように広がり始めやがて透明な湖のように視界の全てをそれで覆ってしまうものなのだ、という事を最近知る。知るというより、実際にそれを見る。
向こうにあるのではなくこちら、外側ではなく内側にあって、
わたしから湧き出てわたしを消して行くもの。
水晶玉を覗き込むようにその人の目の奥を覗き込む。全ての時間、全てのイメージがひたひたとそれに浸されて行く。その人は何か云おうとして口を開くけれどももうなにも言葉にならない。
手を握っても
恐ろしいほどの距離を感じる。