昨夜。
裏東横堀(裏なんとかに対抗して勝手にそう呼んでいる…)で新しく見つけた、おっさんが一人でやっている飲み屋の湯豆腐は可もなく不可もなく。マグロのお刺身は氷をしいた皿の上にのっけた笊に盛りつける凝りようなれどマグロ自体が凍っている。でもいいのです。凍ったお刺身がとけるまで、一人でほおっと眺めながら呑むのも嫌いではありませんから。もう一人、おっさんの客が、んっ?、という表情で思案深げに魚の骨のありかを探っている。開け放しの入り口から入ってくる蚊は、比較的若いおっさんである私の血ばかり吸う。
帰り道。
マゼランの艦隊が後にその名を冠することになる細い海峡を通って、はじめて、茫漠たる太平洋へ抜けたときに見た風景(目の前にある果てしなさ、のようなもの。止めようもなく、そちらへ進んで行く時の恐れと喜び)を梅雨の夜の東横堀川に見る。