雨。昨日も雨だったな。玄さんは山へ機織りにいっている。象々が1日かけて染めあげた糸を使って、パタンパタンと草木のやわらかな色と香りに包まれたブックカバーを織っているのだ。雨の音だけが聞こえて、とても静かだ。「おめでとう」といってみる。一人。「ありがとう」と答えてみる。古書象々が開業してこの4月で10年、あの、開店予定日の前日に届いた、貯木場から直送されてきたびしょびしょの木で組まれた本棚のことを思い出すと、今でも、とても腹立たしい気持ちになる。あのラリパッパのレゲエの大工は元気だろうか?どうしてそんなものを造ってしまったのか、本が紙で出来ていることを知らなかったのか、それをレゲエに問うてもしかたがない。濡れた本棚に、はたして本を並べることが出来るのかどうか?奇妙な議論が繰り広げられたが、残念ながら、予定日にお店を開けることは出来なかった。
「本棚が濡れているため、開店日が、少々遅れます」
ドライヤーと3台の扇風機とエアコンと大量の湿気取りで貯木場直送の濡れた本棚と戦うこと一週間、見かねた知人が材木屋に問い合わせたところ、そんなもん、濡れたまま組んでしもたら、乾くまで一年かかるで兄ちゃん、といわれ、大工のレゲエにその旨、兄ちゃん、ええかげんにしいや、せやから濡れた本棚なんかアカン云うてるやろ、と伝える、うん、あかんな、撤収しよ、撤収や、さすがのボブマーリーもうなだれて、ぬれた本棚を残念そうにバラシはじめた。鼻歌をうたいながら、形は、かっこよかったんだけどね。***さてそこから象々がどうやって開店にこぎつけたかはまたのお話として、この二日つづきの雨は、湿潤な古本屋の本棚を懐かしく腹立たしく思い出させるとともに、ブックカバーになるための草木の緑を、さらに鮮やかにしてくれるにちがいないのです。