象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

わたしのアンは、

「もう迎えにきてくださらないのじゃないのかと、心配になってきたもんで……」

                              今日の花子とアンより。

 

赤毛のアンの物語があまりにも幸福に満ちているので、ひねくれもののわたしは、もう二十年も前から、ほんとうは、マシュウ・クスバートはブライト・リバーの駅にやってこず、やせっぽちの赤毛の女の子はひとりで、(幸福の訪れを待ちながら……)「月の光をあびて一面に白く咲いた桜の花の中で眠」っているのではないかという思いに捕われつづけているのです。

 

マシュウ・クスバートはいない。マリラ・クスバートはいない。歓喜の白路はない。輝く湖水はない。リンド夫人はいつもの窓際に座らない。オーチャード・スロープはない。ダイアナ・バーリーはいない。お化けの森はない。恋人の小径はない。すみれの谷、妖精の泉、アボンリーの美しい自然はない。ジョシー・パイはいない。ギルバート・ブライスはいない。グリン・ゲイブルズはない。

 

白く光る桜の花につつまれれて、穏やかな寝息をたててアンは眠っている。わたしのなかではもう二十年も、眠ったままでいる。もうそろそろ、遠くから迎えにやってくる馬車の音が聞こえるかも知れない。あるいはそれは、なにか別の物音の聞き違いかも知れないけれど、覚めない夢の中で`ない`は`ある`に変わり、深い眠りの中で目覚めるとそこには、

古本屋の日記 2014年9月12日