夕暮れ。たんたんたよしのAセット。一階カウンター奥角の席に座り千日前の人の流れをぼんやりと眺める。はなきん、という奴であろうか、ネクタイを締めたサラリーマンが多いような気がいたしますが、そこにパチンコで負けたおっさんやどっかからの旅行者、とくに楽しくはなさそうなカップルや行くあてのない影の薄い人あるいはテレビで毎日見るようなあらゆる種類の人想像の範囲内の人々姿形裏返って影や光のあらべすくあらべすく……。たよしの窓はほこりや油で薄汚れ曇ったガラスの向こうがなにかぼんやりとした幻のように見え、人がくるくる現れては消え消えては現れるその傷んだ水晶玉の中にこそ人の世界があるような、その不思議な球を、手の持ってつかめるような……、と、ちょっと酔って幽体離脱していると、遅れてバイトに入ってきたワンさんが、店の空気を入れ替えようとでも思ったのかその窓を開けたので、どっと外の空気が入ってきてガラスの球体ははじけこっちっとあっちは入り交じって春なのに少し肌寒いおお寒いワンさん熱燗をもう一本。
窓が開いたのでもう一本熱燗を
古本屋の日記 2014年4月11日