良い本を沢山残して死んだ場合、なるほど象々もひとかどの古本屋であったと同業者から感心されるかもしれませんが、売り立てられる心残りの本やあれこれに、あの世からでは止札を入れることも出来ず、振りで突き上げることも出来ず、さぞや歯がゆい思いをするに違いない。その値段では納得できぬと大声で喚いても、この世の同業者達の喜ぶ姿その肉体をすり抜けるだけ……。
逆に、なんにも良いものを残さず……本屋の未練も何にも残さずにあの世へ行った場合、さてそれでも多少は片付けの必要があり有志のご同業数人が荷物を括りに来たとして……さてさてその昼休憩、定食屋でビールを飲みながら話される会話を聞くと……まあ……よくは聞き取れませんが……恥ずかしいやら何やら、耳を塞ぎたくなる訳で……。