朝、尾崎翠の「第七官界〜」の女の子のような硬いくせ毛をそこらにあった白い櫛で珍しく梳いてみると、分け目の隙間から地肌が目立つようになったなあと思うのはの仕方ないにしても、頭頂部から後頭部前半?にかけてはもうなんかが目立つとか云うよりもそのまま「禿」といったほうが世間的にも罪がないし、自分の心も寂しいながら納得できるような状態であることを鏡の中に見出し(何度も見出すのでですがその度幾度も新鮮な驚きがある……)、きっとわたしの年老いた母はこのなんでか日に焼けた頭部の地肌を「第七官界〜」のおばあさんのように悲しむに違いないと思うわけです。
びなんかずらを七分に桑白皮三分。分量を忘れなさるな。土鍋で根気よく煎じてな。半分につまったところを手ぬぐいに浸してーーいつもおばあさんがしてあげるとおりじゃ。固くしぼった熱いところでちぢれを伸ばすのじゃ。毎朝わすれぬように癖なおしをしてな。念をいれて、幾度も手ぬぐいをしぼりなおしてな」
……略。
ああ、お前さんは根が無精な生まれつきじゃ。とても毎朝は頭の癖なおしをしてはくれぬじゃろ。身だしなみもしてくれぬじゃろ。都の娘子衆はハイカラで美しいということじゃ
……略。
そうはいっても、都の娘子衆がどれほどハイカラで美しいとて人間は心ばえが第一で、むかしの神さまは頭のちぢれていた神さまほど心ばえがやさしかったというではないか。天照大神さまもさぞかしちぢれたお髪をもっていられたであろう。
尾崎翠「第七官界彷徨」より