ちょっとだけ市場を覗いて、なにも入札せず退散。降り出した雨音を聞きながら、夜の忘年会に備えて、じっと横たわる。わたしがわたしであることの証しは、ただ、繰り返し訪れる宴会の席にしかないのかもしれない。宴会の人。お銚子者のレーゾンデートル。布団から顔だけ出してじっと虚空を眺める。酔って喋りつづけているあの人は、確かに、他の誰でもなく、わたし自身だ。嫌だ嫌だと云いながら、なんか、嬉しそうじゃないか。人に注がれるのもまどろっこしい。ここから先は手酌手酌と一人上機嫌。疲れる。……。わたしが、あの人であることを止めたとすれば、宴会のお調子者は一体どこへ行くのだろう?実体を無くし、空のお銚子を振りながら居酒屋から居酒屋へと彷徨い続ける霊体となっても、時折、忘年会シーズンなどに、思い出したように都市伝説として君が話してくれたとしても、誰も、ビビったりはしないだろう。笑いもしないだろう。
お銚子。
古本屋の日記 2012年12月17日