画家であり、写真を生業としていたヴォルスが、詩人のトリスタン・ツァラからアフリカ彫刻のコレクションの撮影をノーギャラ(ただし昼食付)で依頼され、快く引き受けたのはいいのですが、一日かけて丹念に撮影したその写真機には肝心のフィルムが入っておらず、数日後にツァラを、かの偉大なダダイストを、かんかんになって怒らせたそうです。
……。
「カメラは空だったが、仕事はきちんとしたんですよ」ヴォルスは、後日、にやにやしながら私に報告した。おまけに「昼食はすごく美味かった」とも言っていた。かんかんになっているツァラに向かって、彼は何食わぬ顔で、「よくあることなんだよ」と弁明した。それから考え込むような顔をして言った。「写真を撮るというだけで楽しいんだ。結果なんてどうでもいいんだよ」
ハインツ・ベルグララン著(田部淑子訳)最高の顧客は私自身より