象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

象々、クリスチャン・ルブタンに出会う。

所用で福島まで出掛ける途中、ようやく改装が終わった阪急百貨店をぶらついていると、なにやら、頭がいい感じに剥げあがってふっくら一見温厚そうではあるが実はとても神経質そうなフランス人のおっさんが、とても高価そうに見えるハイヒールの靴底にペイントマーカーでせっせとサインをしているのに出くわす。よく見ると、そのおっさんを目がけて長い行列、ふらーと象々トレーナーを着たおっさんはその真横に立ちしばらく観察、連れ合いに、クリスチャン・ルブタンという有名な靴のデザイナーであることを教えられ、お店の中に入り、並んだハイヒールやパンクの兄ちゃんの革ジャンみたいにトゲが突き出ている黒い靴などの値段を見てみると、一番安いもので6万円台、高いものだと三十万円を越えるものもあり、わたしなんぞが素手でぺたぺた触ってみてもいいもんかどうかと思うくらいの高級品、なるほど、こいつは古物屋目線で見てもいいもんだ、一見派手に見えるが繊細な作り、持ってみると、ビックリするくらいに軽い、うむ、確かに、このゲイの業師のファンの女の子からしてみれば、目の前にいるこの機会に一足でも購入しサインをもらい部屋に立派なオブジェとして飾ってみたいと思うに違いない、そうだ、エロティックな靴を飾る、その、意気や粋や良し(靴底のサインですから履けません)、とは云うものの、かのデザイナーを前に泣き出す女の子や、やたら金の臭いをさせている招待客ばかりの割には、わたしがみた所、三十万円のもの凄い靴を買っている人はいないように見えましたが、ね、まあそれでも、最低六万円の靴が何足売れるか勘定してみてその莫大な金額にまだまだ日本には余裕があるなあと思いつつやっぱり日本はもうダメだなあとも思い、サインが終わるたびにクリスチャン・ルブタンのペイントマーカーで汚れた指をふきふきしてあげているアシスタント兼恋人らしい黒人の男の子とお尻をくねくね振りながら歩いている何の役目だかわからないイタリア人風の男だけが、能天気にこの世の春を謳歌しているように見えたので、わたしもその春につられ、小さな声でサバ?と声を掛けてみましたが、もちろんルブタンは知らんぷり。

古本屋の日記 2012年10月28日