暇な時に古本屋は自分が現実の社会の中で商いをしていることを忘れたようにして自分のお店の本棚を読み進んでゆく。まるで世界には自分一人だけしかいないような素振りで、一文字一文字を撫でるようにして目を開いたページからあげることがない。忙しいとき古本屋は本のタイトルばかり読んで調べごと隙間の開いた本棚を一冊一冊小さな欲望で埋めでゆく。この本は千円、この本は二千円、眠れない程、欲望の足跡は続くけれども、長雨の店番が続けば、書き込まれた値段は水に溶けてなくなる。この本は良い本、この本は素敵な装幀の本。……。
古本屋と本。
古本屋の日記 2012年10月22日