象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

ないものねだり。

マーニー・ハイイェー自身の手になる9冊の書物のことが頭から離れません。失われた言語で書かれた、失われた宗教の、失われた書物。特に、マーニー自身によって聖典からは外され重要度においては劣るものかもしれませんが(マーニー教は教祖自身が聖典を作成した数少ない?唯一の?世界宗教なのです)、時のペルシア帝国皇帝に捧げる為に、中世ペルシア語を独自に開発したマーニー文字で表記し書き上げられた労作、「シャーブフル皇帝に捧げる二元論」が、わたしの頭の中では意味も何もわからずにひたすらこの世ならぬ美しい書物のイメージとして成長して行くのです。その美しい書物を想像してみるよすがにと、現存する、世界で最も美しい書物の一つとされている彩色写本「ベリー公のいとも豪華なる時祷書」のミニチュアールの図版を眺めてみたりするのですが、やはり、想像される、かの書物によって得られる美的興奮には、足下にも及ばない気がして、なんだか余計に欲求不満になってしまうのです。「ベリー公〜」は、確かに、奇跡的に美しい書物ではあるでしょうが、それは結局この世のものなわけで、エーラーン・シャフルの乾いた土に幻と消えたマーニー直筆の不可解な書物の、この世のものではない美しさには、敵うはずがないのです。

古本屋の日記 2012年9月14日