雨中野ざらしの図。
湿気に満ち満ちた世界。べちゃべちゃの地面にまだ幾らでも雨は落ちてくるのです。光を放つ美しい苔類や色とりどりの菌類。そのあいだを這う泥水を半ば自分の身体の一部とする無数の足を動かしながらちっとも前に進まない不思議な蟲たちと一緒にいつまでもわたしは湿気の惰眠を貪るのです。幾日か、幾年か、雨と体液が循環し合い、あれほど恐れていた腐敗に身体が内側から溶けて流れ出し養分豊かな泥となってまた新しい無数の蟲にわかれて地を這いずり回っても、もうこの心地よい眠りから目覚めるつもりはないのです。今ではかえって、腐敗する事が心地よい。どろどろと徐々に人間から離れてゆく内蔵もなにも溶け出してただ襤褸を纏った骨と虚空を見つめる眼窩だけになってようやく心の平安が訪れる事もあるのだなと降りしきる雨に思うのです。
古本屋の日記 2012年7月6日