紙々にももちろんランクというか階級というか天上界や地上界におけるステージの違いというか、なんかそんなもんがもちろんあるのです。住んでいる場所が、違うのです。普段わたしたちが接している紙々は、すがた形もあまりぱっとしないようなあの土地この土地に古くから居着いて忘れられかけている、名前も由来も定かではない土着の紙々や行くあてもなく彷徨い誰からもあまり喜ばれないような浮遊紙なのですが、先日、数年に一度天上界の空が開いて由緒正しき金色の紙々の姿をわたしたち地のものも垣間みることのできるお祭りがあり、わたしも末席ながら祭事のお手伝いをと馳せ参じ恭しく紙々に拝礼入札してみたのですが、さすがに天上界の上級紙が要求する紙の金の量は半端ではなく、お側に近寄る事かなわず、ただ遠くからそのご尊顔を拝見し、よしわたしも、よしよく修行して、天上界の紙々の世界へのぼってゆくぞと思いを新たにして夜道を家へと帰る道すがら、安堂寺橋の急な坂道の隅っこで夜の殿様バッタの戴冠式に出くわし、だれも聞くものもいない、厳かで誇り高い地べたの声が地上数センチのところで響きわたるのを聞いた。「地のものどもにも幸いあれ」ぺったん。ぺったん。
バッタの夜。
古本屋の日記 2012年6月12日