怖い夢を見た。暴風雨の中、ファム・アンコークという反重力的な女が僕を追いかけてくるのだ。顔は、判らない。ぺたっぺたっ、と、サンダルを引きずって、ものすごく遅い速度で追いかけてくるのだが、僕も、なにか反対側に向かってゆっくり進む時間の流れに押し戻されるように、前へ進むことが出来ない。アンコークは、口から泡を飛ばして、僕を、ひどく、口汚くののしる。暴風雨の中で、突然、布団を叩き始める。あれ、こいつ、どこかで見たことあるな、テレビで、あの、やっかいなおばさんだ。引っ越せ引っ越せ、出て行け出て行け、大きなランドセルを背負った僕は、泣きながら、転校の挨拶をする。
昭和4年、特高警察に捕まった劇作家高田保は、妻のため、といってその考えをあっさりと捨て去った。今日から早起きをして、一生懸命に働こうと思う。爽快な、気分。すでに、働いたような。