(某氏に宛てた香月の羊の年賀状)
眠るのももちろん紙々とともに眠るのです。
神経病みの、詩人をきどって。
わたしは、少し、寝付きが悪いのです。紙々のざわめきが、深夜頃になると急に耳につきだして、あの紙この紙過ぎし紙のことなど気になりだして、煩悩と云うか、恋と云うか、とにかくメモ書きをクチャクチャに丸めて脳と入れ替えたような変な心地で、いつまでも紙々のことを思い眠る事が出来ないのです。眠れない夜の紙は切ない。そんな時には、いつものように、香月の深夜の羊が葉書の中から飛び出して来るのを一匹二匹と勘定して、メエメエいう声に耳を傾けだんだん記憶を奪われ心を落ち着け、ようやく、朝が訪れるほんの少し手前くらいには、眠につくことができるのです。朝の光を浴びないうちに紙の中に戻ってゆく羊が振り返って云うにはあんた、単に、昼寝しずぎや。スペイン人とちゃうねんから……。それと、もっとええ紙食わしてえな。