象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

初夏珍景。

古書会館の一階。Sさんは黙々とやるべき事をなし、フルカワは、なにか、思慮深げに煙草部屋に座っている。小心出血胃潰瘍も少しましになったのか、顔色は、悪くない。こちらから見ると窓枠に巧くはまって、なにか、奇妙な絵画のようである。ワシは、あいかわらずバタバタと、どうにもいけない古本をあっちにやり、こっちにやり、結局大した事はしていないのだけれど、土曜も、働いている気分。R子はなにをしているのかエレベーターで上がったり下がったり、Yちゃんは、5階で、真面目な顔をして、ジッと本を見ている。爽やかな、初夏の、古書会館の、群像。あ、重要な人物のことを忘れておりました。彼岸の、古本おやじが、一階の、薄暗いすみっこで、苛立たしげにワシのカーゴを押しやり、そんで、軽く蹴飛ばす。ここんとこ、良好な関係であったのに、どうも、今日は、虫の居所が悪いようである。「こんなもんで食うていけるかあっ」と本をバアンと叩いてこちらを見る。無視無視。「こんなもんで食うていけるかあっ」と再び、もっと、こっちを、見る。モア、見る。無視無視。ワシのせいちゃうし。無視やで、今日は。なんでかいうたら、遅まきながらジョニー・デップの「ダーク・シャドウ」を観にゆくの楽しみにしてるんや、かまってる魔、ないで。さて、さっさと退散、する前に、やっぱり「おっさん……」と、なにか話しかけそうになって、やめる。
古本屋の日記 2012年6月2日