四十三歳になった秋、玄さんにガリガリ君を買ってもらう。
夜。
ホイホイと、闇夜を抜けてJ君が尋ねてくる。まあ入れよとも云わないのに、さっさとお店の中に入って、村野藤吾作だかなんだかわからない椅子に座る。僕は、もう、眠い。けれど、J君は久しぶりに会った勢いで、あることないこと、自分の苦境を訴えてくる。もうダメだ。なんともならない。明日には首を縊らなきゃならないだろうね。と、まるで他人事のように話すーーで、君は、どうなの。
もちろん、僕も明日には首を縊らなきゃならないだろうね。と、付き合いで答えてみるけどJ君はもうその話は聞いていない。君も苦しいのだねと軽く受け流して、今度は別の、新しい苦しみをあることないこと話して、入れたての、インスタントコーヒーを少しだけ飲む。僕は苦しいんだよ。苦しい。(ほんとうに、J君は苦しむことの優等生なんだ)。このコーヒー、美味くはないね。君には、とても悪いけれど。
ーーそう。美味くはないだろうね。別に悪くもないだろうけれど。ところでJ君、ずいぶんと悩みが深いようだけれど、夏休みに入りたての少年のように顔色がいいのは、一体どうしたわけなんだろうか?