父は、家の床がふわふわして歩きにくいのだという。母は車の中で履いていた靴を失くす。今まで当たり前だと思っていた現実とは少し違う現実の中に知らぬ間に迷い込む事もあるかもしれない。父のふわふわして歩きにくい床はいつかどことも知れない底へむかってゆるやかにふわふわしたまま崩れて行くかもしれない。母の靴はもう見つからないかもしれない。雨の赤信号せわしなく動くワイパーの向こうをぼんやり見ながらわたしはそれでも大丈夫だと思う。大丈夫。そのようなこともそのようなままに生きる事が出来るしそれはそんなに悪い事ではないと、思う。
床靴雨。
古本屋の日記 2015年7月7日