象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

カトマンズ

関連:

オートリバースのウォークマンとどんな由来のものかは定かでないネパールの仮面色々&なんか黒い宝石の原石ずだ袋一杯を交換しろといってきかないおじさん。そんな荷物を抱えて旅を続けることは出来ないと断ったら、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。

 

 

なるほどオートリバースのウォークマンはネパールでは相当魅力的なものであるらしい。それでは、と、曼荼羅画家の工房に上がり込みこれとあんたの作品を交換してくれと頼むと一番小さくて貧相な絵を指差してこれとならいいよ。いや、このウォークマンは最新式のものだからと大きくてより複雑な絵柄のものを指さすとお前はわたしの仕事を理解していないと冷たく拒絶され。

 

 

古い石の塔。リンガ。ガートで洗濯をする女。回るマニ車。絶えないお香。(記憶が、ステレオタイプ化されている)

 

 

カトマンズの宗教的な雰囲気にはそぐわない感じの赤いシャツを着たプッシャーの男の子。しばらく話して別れると別の男の子が近づいてきてあいつは嘘つきだから気をつけた方がいいという。

 

 

カトマンズのぼろいビルの一室でマッサージをしていた巨乳の女の子はブータンから出稼ぎに来ているというのは本当だろうか。同じゲストハウスの日本人がちょっと触ってみたけど怒られなかったというのでわたしも行ってみたら、順番を待つ外国人が何人かいてとても触れるものではない。

 

 

夜。画家の弟子の青年にカトマンズの裏路地のオンボロの民家のような居酒屋に連れて行かれトゥンバという大変フルーティーなお酒をご馳走になる。細長いバケツのようなものになんか発酵したツブツブが一杯入っていて、それにお湯を注いで飲むのですが、これがなかなかいけるわけです。おかわりのお湯を持ってきた女の子がかわいいというと、実は彼女と結婚することになっているんだ。

 

 

ロイヤルネパール航空のストライキのせいで予定日を過ぎてもカトマンズに足止め。けれどもまた長い道のりをバスに乗ってインドまで下って行く気にはなれない。

 

 

だだっぴろい原っぱのような飛行場の入り口。夕暮れ。10歳くらいの少年がわたしに話しかけてくる。どこのゲストハウスに泊まっていたのか?ネパールの旅はどうだったか?日本はどんな国か?ほかに、どんな話をしたのかは憶えてはいないけれど、カトマンズの街並を眺めながらずいぶん長く話し込んでいたような気がする。少年の父親も街の外れで小さなゲストハウスを経営しているらしく、また今度ネパールに来たら絶対うちに泊まってくれとメモ書きを渡される。
またいつかーーまたいつか。別れ際にお前ほど英語のうまい日本人は知らない、と少年に褒められる。他のどこでも、わたしの英語は通じないんだよ。

 

 

ネパールの夜は一つの大きな暗闇。その闇にインドへ下る小さな飛行機が浮かんでいる。窓から見下ろせばその闇はさらにいっそう深く感じられる。ぽつぽつと灯っている人の明かりよりも暗闇や沈黙の方がどれほど大きいか、どれほど果てしないか。そのことを思えば小さな明かりが一層懐かしく暖かく思われる。

古本屋の日記 2015年4月29日