「天ぷら喰いたい、天ぷら喰いたい。…………。」
谷崎はんーー母を戀ふる記
本当に、昨今の文学全集の値段の安さと言ったら、お客様に買取金額を口にすることが出来ないくらいである。こんな立派な本に、あんまり安い値をつけるのは気が引ける、ケチだと、思われたくない。だからついつい、断ってしまう。いい本なんですけどねえ、うちでは、ちょっと扱いかねます、なんてーー断られたその本は何所へ行くのか?捨てられて、再生紙になるのか?どっかに不法投棄されて、幾日も幾年月も雨にさらされて、なにがなんやら、判らんもんになってしまうのかーーただの、紙の塊、繙けば、素敵な言葉ーー三味線の音が、本当に「天ぷら喰いたい」なんて聞こえることがあるのかなあ?なんて考えながら、子供谷崎とともに「一種不思議な」月光街道を歩む。酒は、今日は冷や。チビリとやりながら、月あかりになまめく白い襟足、白い白い手頸、「舐めてもいいと思われるほどの真白な足の裏」などなど、谷崎はんのド○○ぶりを楽しむ。何所とも知れぬ夜の街道を歩きながら、悲しみに満ち満ちた調子なのに、どっか、やっぱり、やらしいんだよねえ。と、またチビリ。酔ってるから、あんまり内容良くわからんのに、楽しめる。久々に、天ぷらの、三味線の音が聞きたくて、一山いくらで買っておいた谷崎の新書判の全集、読みたい時に、読む。無理はしない。読みたいとこだけ、居酒屋の隅でも、どこでも、少しだけ読む。贅沢な、読書、の時間を与えてくれるのは、何回も読まれた、ボロい、気安い本だ。気取らずに、好きな場面だけ、読む。本は、悪くない。けど、