星田の家に転がっていた古いビデオテープを再生して、天海祐希がレット・バトラーを演じた「風と共に去りぬ」を観る。
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わたしが「風と共に去りぬ」を読んだのは中学三年生の冬のこと。建て替える前の星田の家の薄暗い台所、円筒形のストーブのそばに座布団を敷いて座って、朝、学校へ行く前のわずかな時間を惜しんでも読み続け、それでも一週間くらいはかかったのかもしれません。再読は一度もしていませんので今ではうろ覚えのスカーレット・オハラの物語の詳細を語るなんてとてもできませんが、いつでも、その頃のことを思い出すと、本の中に身も心もあずけて一緒にその人生を生きてしまうような、そんな幸福な時間を過せたことが懐かしくあたたかく思われるのです。どんなに本を読んでも、もうそんな時間を過ごすことは出来ません。いつでも、他のなにかが邪魔をしています。自分ではない自分を楽しむ時間なんて、どこかの冬の野っ原に忘れてきたのかもしれません。