象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

スパイ術の午後。

どうも、自分自身に肯定的になれない、ここ数日。わたしの知らぬところでわたしがなにかしら悪さをしているのではないかと、真面目に本を拭き拭き考える。天井を見上げ、観察し記憶する者を探そうとするも、ただ厚ぼったい空気があるだけ。思い出せない、けれど、どこかにその記憶があるような、無目的な本の整理作業の影に隠れて、きっと何かしているに違いない、そう思わせる何かが自分にはある、ような、気がして、目玉だけ体外に離脱させじっと自分自身をスパイする嫌な術にまじめに取り組む真夏の午後でございます。

 

今日の「罪と罰」

「貧は罪ならず、これは真理ですよ。飲んだくれることが善行じゃないくらいのことは、わたしだって知ってますよ。そんなことはきまりきったことだ。しかし、貧乏もどん底になると、いいですか、このどん底というやつはーー罪悪ですよ。貧乏程度のうちならまだ持って生まれた美しい感情を保っていられますが、どん底におちたらもうどんな人でもぜったいにだめです。どん底におちると、棒で追われるなんてものじゃありません。箒で人間社会から掃きだされてしまうんですよ。これだけ辱めたらいいかげんこたえるだろうってわけですよ。それでいいんですよ。だって現にこのわたしがどん底に落ちたとき、まず自分で自分を辱めてやろうと思いましたものね。そこで、酒というわけですよ!」

マルメラードフが、薄汚い地下の居酒屋で、ラスコーリニコフに話した言葉。

新潮社版ドストエフスキー第7巻 工藤精一郎訳。

古本屋の日記 2013年8月2日