酷い二日酔いーー。
ーー欠如から生まれるとき、美はもっとも強烈な輝きを放つ。私のなかの欠如。美の体験としてまっすぐわたしを打つ強烈な表現や感情。味わうまでは、ないことに気づかなかった、あるいは忘れていた、そしていま、今後も永遠にないのだと気づく感情。憧憬。美の体験はわたしのなかの欠如を意識させる。私が経験するもの、触れるものには、喜びと痛みがふたつながらにある。欠如の痛み。そして欠如の感覚をひきおこす美しい形姿、心に沁みる形の喜び。作家マルティン・ヴァルザーの言葉を借りよう。「なにかが欠ければ欠けるほど、欠如に耐えるために動員しなければならないものは美しくなり得る」
ペーター・ツムトア「美に形はあるか」〜みすず書房刊「建築について」所収 鈴木仁子訳
浅い昼寝ーー。
ぼっかりと黒い穴の開いた胸部の暗い奥行きを探ろうと自らの腕を突っ込んでいる。どこか欠けたわたしがどこか欠けたあなたと話をしている。だいじょうぶだ何も存在として不足はないわたしたちは思った以上に……、いやいや嘘はいけないねえ、人間は思った以上にみっともない姿形と心をもっている。みっともない鏡を美しく磨いている。この暗い胸部の穴はどこまで広がっているだろうか?……出来ることは、手を空に彷徨わすことと、その暗部からこちらへ向かってなにかが少しずつ近づいて来ていると云う予感を信じること。なにか?まったく知ることのなかった?……。このまま欠けたまま待ち望むこと。