象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

かぞくのくに。

ヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」を観る。多くを、語らない映画です。自らの体験をもとにしながら、あまり感情的にならないよう、意識的にか無意識的にか微妙な距離を取って映像を紡いでゆく、そのことによって生まれる余白の中に、言葉では云い表すことができない悲しみと怒りを託しているのだと思う訳です。その映像は、彼の国人々が未だほんとうの怒りやほんとうの悲しみを言葉にすることができず長い長い沈黙を生きていることと合わせ鏡になっていて、無言のままに互いを映し合っているのです。帰国するソンホが、おそらく子供の頃に遊んだ河川敷の景色を車から眺め、車のウインドを降ろして風にあたり、かすかに、「白いブランコ」を口ずさむがまたすぐウインドを上げて黙ってしまうのは、これ以上風にあたって歌を口ずさめば、厳重にしまい込まれたなにものかが自分を割って溢れ出てしまうからにちがいない。窓を隔てて、ソンホは別の国に黙って生きる。ーー余白を満たすに足るソンホの涙は流されないし、ソンホは、語らない、ソンホは一度も、日本に戻りたいとは云わずに(またソンホに日本がどのように映ったかもわからないままに……)、ただ静かに、「かぞく」は離ればなれになってゆくのです。

 

ミヒャエル・ハネケ監督の「ファニー・ゲーム」も観たけどね。なんも云わんとくわね。うんうん。

古本屋の日記 2013年3月30日