象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

墜落の夢。

不可能性への挑戦こそが浅田真央の強さと美しさ(やや恥ずかしい表現ですが)の源であると信じて疑わないわたしには、今シーズンの、トリプルアクセルを飛ばない「白鳥」は少し物足りなく思えていたのですが、昨夜のグランプリファイナルで見た氷上のグランフェッテは、高難度のジャンプに頼らずとも闘える新しい浅田真央の可能性を示すのにあまりある演技であるとミーハーに拍手喝采感動してしまうわけなのです、が、久しぶりに表彰台の一番高い場所に立った浅田真央の、ほっとしたような、それでもどこか満足し切れていないような表情を見て、氷上をどれほど美しく舞う事が出来たとしても、それで今日の勝利が手に入るとしても、やはり、浅田真央は、また飛ぶことのほうへとエッジを切り返すであろうというごく当然の未来を思い、その、まだ見ぬ新しいジャンプと白鳥の舞に、勝手にひどく心を打たれたのであります。なんでか、ひとは、見果てぬ向こうの世界へ、飛んでみたくなるものなのです。いまここでジッとしていることの悪夢に耐えるよりは、飛ぶこと、そして届かずに墜落することのほうが魅力的だと思うのは、決して青臭いヒロイズムではなく、人間に備わった根源的な欲望なのであります。

古本屋の日記 2012年12月9日