象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

牧歌的な異端審問についてのメモ。

父を病院に連れてゆく。

均質な光に満たされた病院の待合室は、読書にはうってつけの空間です。

……。

青木健著 マニ教より

 

4世紀頃のゾロアスター教神官団がマーニー教を異端として非難する理由は以下の4点である。

①マーニー教徒は近親者と結婚せず

②善なるものを賓客とせず

③物質世界を宇宙の基礎と思わず

④世界を完全なものと認識しなかった

 

マーニー教徒は審問官に厳しく取り調べられ転ばされるわけですが、さて、その時、本当に棄教したかどうかを判断するために蟻を踏み殺すことを命じられたのだそうです。

 

ーーおまえの信じるチョー最悪な教えを本当に棄てたかどうか、試してやる。ほれ、この、地面をえっちらおっちら歩いているアリンコを踏んずけてみやがれ。

ーーううっ。

ーーできないってのか。ええ。悪なる創造物であるこのアリンコを踏み殺す事が出来ねえっていうのかい?

ーー全ての生き物の体内に光の要素が閉じ込められているので、あの、その、光を傷つけるとヤバいので……。

ーー踏めねえってのかい

ーーふっ、ふっ、踏めません。

 

といった喜劇とも悲劇ともなんともいえない光景がむかしむかしのイラン高原あたりで繰り広げられていた事をわたしは忘れないでおこう。信条を曲げない為には、命を捨てても、アリンコ一匹殺せない事もあるのです。

……。

 

あっ、父ちゃん出て来た。

古本屋の日記 2012年8月31日