男、トンボ。
灼けつくアスファルトに少しもひるむ事なく裸足で立ち尽くす男の姿を足の指先から少しずつ上へ上へと視線をあげて見てゆくと裸足どころかぜんぜんokなのですが全くのスッポンポンである。古代ギリシャの彫刻には少し劣るけれども光を跳ね返してはち切れそうな肉体が夏の日差しに直立している。腕組みをして、空を睨んでいる。たぶん、もうすぐ男は不動のまま捕まるだろうけれどもわたしは男が何か重大なことをその肉体によって告げようとしているように思えて、ああ、ポリも少し気ぃきかしてゆっくり来たらええのに真っ青な空から急降下してきて空間を切り裂くような見事な軌跡を描いて男の引き締まったお尻をかすめ飛ぶ鬼ヤンマが振り返って複眼でこっちを見る。
古本屋の日記 2012年8月2日