皇紀二千五百九十七年の無名氏の支那大陸の旅行アルバムはまれにみる残虐写真のオンパレードなのでここで開いてお見せするのが憚れるのです。人は人を殺す。という事実を、当時は土産物で売っていたと思われる写真で執拗に見せつけられて、目と、思考のやり場に困ります。市場で、珍しい、と思って買ったのですが、なかなか言葉で咀嚼しにくいものなので、店へもって帰っても、だだ表紙を眺めて、さてどうしたものかと考えております。なんだかわたしたちは人間はほんと良い生き物ではないかなんて勝手に、近頃、思い込んでいるような気がするのですが、そりゃあやっぱり間違いではないかと、そこを、ぐるぐると、思考がまわって、どこへも、行けないのです。中国人でも日本人でもアメリカ人でも、人は人を殺すわけです。そこにはどんな言葉も、1ミリだって差し挟む事はできません。人は人を殺す。理由なんてのは、無限にあるのです。「あたしゃ人なんて殺りませんよ」なんて笑っているあなただって「わたしは人を殺さない」という言葉をかりそめにぎくしゃくと生きているだけで、その勝手に押し付けられた言葉の城壁の隙間に耳をあてて、そこに閉じ込めた、むかしむかしに封じ込めたあなたの沈黙がかたんと何かにあたる音を聞いたら、その暗い奥底ではやっぱりあなたも殺人者であったと、そうだあなたが今ようやく気づいてくれてこのアルバムの表紙を開けてくれればようやくわたしも陽の目を浴びて、親しいあなたにこう語りかけることができるのです。「我が同族、我が同胞、白日の、殺人者よ」
なーんてね。