象々の素敵な日記 古本屋の日記

象々の素敵な日記

考え過ぎの「パピヨン」

腰抜けめ!

俺は生きているぜ!

(DVDの字幕)

 

2度の失敗にも懲りず、絶海の囚人島からダイブしてどこまでもつづく紺碧の海を自由へと漂いながら、パピヨンはいったい誰に向かって叫んだのだろうか。自らの解放への可能性を放棄した、臆病な囚人仲間、偽札作りのドガにか、それとも自分を無実の罪に陥れた誰かにか、ギアナの刑務所、その先にある国家や、あるいは自分を束縛する世界のすべてにか?いずれにせよわたしは、長い間、青い海に浮かぶパピヨンの姿は憶えているものの、その後、彼が生き延び、どこかの国の市民権を得て生涯を全うしたことを全く記憶していませんでした。わたしのなかのパピヨンは、あの紺碧の海を自由に向かってどこまでも、永遠に泳ぎ続けている存在だったのです。人は、自由に向かって泳ぎ続けている間だけほんとうに自由であれる。どこかの国の市民となったパピヨンは、それが一見どれほど自由に見えたとしても、やはり、あの海を何処かへ向かって泳ぎ漂っているようには自由でないのです。「死ぬかもしれないぜ」。泣き笑いのような表情でパピヨンを見送ったドガのいる場所、与えられ、生きる事のできるあの場所から脱出したパピヨンも、結局はそこ、元の刑務所と同じような不自由な生の場所に、辿り着くのではないでしょうかね。パピヨンの叫びはパピヨンに向かって谺する。パピヨンに、聞こえるかどうかは別にして。

 

Hey you bastards..

I’m still here!!!

(マックインの嗄れた声)

古本屋の日記 2012年6月3日