駅から病院まで。
久しぶりに、旧片町線の、京都方面の外れの、長尾駅で下車する。おじいちゃんおばあちゃんの住んでいた家があった田舎町。線路を渡るための、昔はあった踏切を見つける事が出来ず、少しの間道を迷う。駅の案内板で方向を確認して、記憶の中の、舗装されていない土道を、古い名前でいえば長尾病院と呼ばれていたはずの場所へと向かう。今ではすっかりアスファルトの道路になって奇麗な建て売り住宅が並んでいるけれども、たしかに、あの小さな家があった場所に昔と同じ竹林があり、その向こうから、片町線のカタカタ通り過ぎてゆく音が聞こえる。院長先生の家の脇の門をくぐって病院へと続く林の小径、怪魚が大きく跳ねた沼も見つけることができない。見上げると夏の日差し、日傘を差したおばあさんが汗をハンカチで押さえながら幼いわたしを見ている。「潤んさんはなんぼでも蝉とりはるから、なんや、もう、可哀想になってきますなあ」
古本屋の日記 2012年5月14日